アトピー便り50:彷徨(さまよ)う患者さんへ(5)

今回は(5)説明をしてくれない(話を聞いてくれない)。 を検証します。医師の「説明がない」ケースでは主に以下の三つの要因が考えられます。①症状が軽い、もしくは経過が順調で説明を詳しくする必要性を医師があまり感じていない。②過去に患者さん(親御さん)に十分な説明をしたことがある、もしくはいろいろ説明をしたが、聞き入れてもらえなかったことがある。③患者さんが多くて説明をする十分な時間がない。

先ず①についてですが、医師側から見ると初診時には重症例や治療歴の長い方、再診時には症状が良くならないとき、特に悪化したときには十分に時間をかけて患者さんに説明していく必要があります。一方で、初診時における軽症例や再診時において治療経過が順調な場合には診察の時間は短くなりがちです。しかし、患者さんにとっては症状の軽重にかかわらず症状の推移、今後の見通しなど、具体的な説明がないと心配になるのも当然かと思われます。

次に②についてですが、一度十分に時間をかけて説明をしたことのある患者さんについてはカルテに記録がありますので、再度同じように説明をすることはあまりありません。ステロイド忌避の患者さんに対してはステロイドを使うにあたり一度はステロイドの概要を説明しますが、繰り返し説明することはありません。というよりも、多くの患者さんは再診されなくなります。また、ステロイド忌避までは行かなくてもステロイドを怖がられる患者さんは未だに大変多く、つけ薬の塗り方が不十分で良くならないケースもしばしばです。このようなケースではステロイドの外用についてきちんと塗るように同じ説明を繰り返すしかありませんが、指導が守られないのが続きますと説明も段々と減ってくるようになります。受診間隔が相当に空いているケースで、特に前回の診察時に症状が目立っていた場合には、セカンドオピニオンで他医を受診していたのか、つけ薬をきちんと塗っていて一時は調子が良かったが、つけ薬がなくなってから再び悪くなったのか、十分に治療を続けなかったために一度も良くならなかったのか、患者さんに説明していただかないと分かりませんので医師の方から改めて説明をすることはありません。

最後に③についてですが、これはどうしようもないかもしれません。限られた診療時間内ではすべての患者さんに十分に時間をかけて説明をすることはできません。患者さんの症状、治療経過、キャラクターによって説明の仕方は変わってきます。①のケースであれ、②のケースであれ、患者さんが主治医に説明を求めれば通常主治医はきちんとお答えしますが、患者さんが混み合っている状況ではその場で時間をかけて説明することはなかなかできません。

実際には前医がすごく混み合っているという理由で病院を替える患者さんが多く見受けられますが、病院を替えるときにはそれまでの経過、治療歴、検査結果などを後医に詳細に正しく伝えないとゼロもしくはマイナスからの治療開始となります。後医に正しく情報が伝わって初めて前医と比べてアドバンテージになります。患者さんが後医にきちんと情報を伝える手間暇や後医での治療開始当初は症状が悪化する可能性が少なからずあることを考えますと前医で治療を続けて、少しでもお手隙の時間にいろいろ質問したり、説明を聞いたりする方が得策かと思われます。皮膚疾患の患者さんが多いシーズンですと病院を替えても多少は混み合うことがありますので、病院を替えようと思われた時には今一度検討されることをお勧めします。

2016/5/27

 

アトピー便り49:彷徨(さまよ)う患者さんへ(4)

今回は(4)検査をしてもらったことがないので根本から治したいから検査をして原因を見つけたい。 を検証します。多くのアトピー性皮膚炎の患者さん、親御さんは、ステロイドの外用剤を長期間使いながら良くならなかったり、再発を繰り返したりしていますので、ステロイド外用剤を塗るだけでは治らない、止めるとリバウンドする、このまま続けていくと副作用が怖い、と考えるようになります。そこできちんと治すには原因を見つけること、ひいては検査が必要と考えます。
アトピー性皮膚炎は皮膚バリア機能の低下とアレルギーが二つの主な発症因子として考えられていますが、乳幼児では皮膚バリア機能の低下が原因でアトピー性皮膚炎さらには食物アレルギーが発症すると最近になって考えられるようになりました。つまり食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因というよりも乾燥肌やアトピー性皮膚炎の治療が不十分なために食物アレルギーが起こるというわけです。
乳幼児のアトピー性皮膚炎の診療においては食物アレルギーの検査をしてほしいと親御さんに言われることがしばしばありますが、先の考え方に従えばいきなり食物アレルギーの検査をすることよりも適切な治療やスキンケアを十分に行なうことの方が大事です。適切な治療を行なっていれば症状が良くならなかったり、再発したりすることはあまりありませんし、ステロイドのリバウンドや副作用を心配することもありません。実際に良くならないと言われる患者さんの多くは治療が不十分で、しっかりと治療を続ければたいていは良くなります。
しかしながら、一部の患者さんでは治療をきちんと続けながら良くならない場合もありますし、明らかにアレルギーが疑われるエピソードが見られる場合、重症の場合には積極的に検査を行なって悪化因子の検索(乳幼児では食物アレルギーの検査)を行なう必要があります。
皮膚科、特にアレルギー科を受診すればアレルギー検査を好きなように受けられると思っている方が多いのですが、(3割自己負担の)保険診療では(診察時に確認できる)症状、経過から検査が必要と主治医が考えた場合に必要な項目だけを調べます。検診と同様、患者さんが気になる項目を調べる場合全額自己負担であれば好きなだけ自由に調べることができます。その場合には保険診療ではありませんので、検査の費用や実施の有無は医療機関によって異なりますのであらかじめお問い合わせされることをお勧めします。

2016/4/3

 

 

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2016/3/10

アトピー便り48:彷徨(さまよ)う患者さんへ(3)

今回は(3)タクロリムス軟膏は塗った後痒くなるので使いたくない。 を検証します。日本皮膚科学会が作成したアトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、薬物療法としてステロイド外用薬とタクロリムス(商品名プロトピック)軟膏が記載されています。アトピー性皮膚炎の治療においては軽症から重症に至るまで幅広く対応する必要がありますので5種類の強さに分かれるステロイド外用薬が薬物療法の中心となりますが、タクロリムス軟膏の長所はステロイド外用薬にみられる長期連続使用に伴う皮膚萎縮を起こさないという点です。また、顔、首などステロイド外用薬の副作用の現れやすい部位の皮疹の治療には最適です。
タクロリムス軟膏のステロイド外用薬に劣る点としては、ステロイド外用薬に比べてストロングとマイルドの強さに匹敵する2種類しかありませんので、ベリーストロング以上の強さのステロイド外用薬のように重症のアトピー性皮膚炎を治すことは困難です。
そこで実際の診療で一番問題になる冒頭のタクロリムス軟膏の刺激症状ですが、タクロリムス軟膏の外用は顔、首を中心に行なわれ、成人の約8割、小児の約5割にほてり感やヒリヒリ感、痛みや痒みなどの症状がみられます。患者さんによっては就寝前の外用後眠れないということで使用中止に至るケースも珍しくありません。その場合にステロイド外用薬をだらだらと続けますと副作用の心配がありますし、治療をしないままだと皮疹は悪化し続けますので何とかしてタクロリムス軟膏の外用を続けるようにしたいものです。タクロリムス軟膏の刺激症状は入浴により増すことがあるので、他の外用薬とは分けて入浴後30分以上経ってから外用すると軽減する可能性があります。タクロリムス軟膏の刺激症状は多くの場合には皮疹の軽快に伴って数日以内に軽くなりますので余程強い症状でなければタクロリムス軟膏を適量塗り続けることが大事です。刺激症状のために塗ったり塗らなかったりであったり、外用量を減らしたりしますと皮疹が改善しないので刺激症状だけが残り続けてしまいます。どうしても刺激症状が強すぎて我慢できない場合には数日間ステロイド外用薬を塗っていったん症状を良くしてからタクロリムス軟膏に替えると刺激症状は激減します。タクロリムス軟膏はステロイド外用薬に次ぐアトピー性皮膚炎の治療薬であり、特に顔、首の治療においては第一選択となります。予防的に外用を続けるプロアクティブ療法でも有効です。刺激症状のためにタクロリムス軟膏の外用を中止している患者さんは今一度皮膚科専門医の主治医と相談されてタクロリムス軟膏の外用を再開されることをお勧めします。

2016/1/19

アトピー便り47:彷徨(さまよ)う患者さんへ(2)

前回に引き続いて今回は(2)ステロイドの塗り薬は副作用がこわいので使いたくない。 を検証してみましょう。アトピーの患者さん、親御さんを診察したり、お話したりする中で最近でも最も多いのがステロイドを敬遠されることです。周りの人から聞いたからとか、漠然ととかで、明らかな根拠もなく使用を避けたいと言われます。副作用について具体的な経験はなく、どのような副作用があるのかもほとんどの方はご存じありません。
小児のアトピーは7,8割は軽症ですので、よほどこじらせない限りステロイドを十分に使わなくても多くは軽快していきます。ところが残りの2,3割の症状の目立つ小児ではきちんとステロイドを使って症状をコントロールしたり、悪化因子の対策を講じないと重症になってしまい、ひいては大人になっても症状が続いてしまいます。一方で一旦治っても大人になってから症状が再発することも珍しくありません。ご自身の経験に基づいてステロイドの使用に否定的な(患者さんの)周りの方々はたいていの場合軽症例か、ステロイドを正しく使わなかったために症状が遷延してコントロールが不十分だったケースであると感じています。
当クリニックでも成人のアトピー性皮膚炎患者さんでは比較的重症の方も多く来院されていますが、ステロイドを大量に長期連用しているケースも多く、中にはステロイドの副作用である毛嚢炎や単純ヘルペスなどの感染症や皮膚萎縮などの副作用が見られることもあります。このような例ではステロイドを大量に使ってはいますが、症状を抑えるために1回に必要な量をその都度使っていないことがほとんどです。皮膚萎縮に対してはタクロリムス軟膏などのステロイドでない外用剤に変更しますし、(基幹病院に紹介させていただいて)紫外線療法、免疫抑制剤の内服療法など、治療の変更を検討する場合もあります。アトピーの重症例では治療を強力に行なうだけでなく、アレルギーの程度(RIST)、悪化因子(RAST)やアトピーの症状の程度(TARC)を血液検査で調べたり、パッチテストでかぶれの原因となるものがないかどうか調べたりする必要があります。全身のアトピー性皮膚炎の重症例になりますとこのような検査も含めて治療が十分にできていないことも多く、基幹病院に治療を依頼して入院となるケースもあります。
いずれにせよ、皮膚科の専門医であればステロイドの副作用を意識して、確認しながらステロイド外用剤を使用しています。実際にステロイド外用剤の副作用が問題となるのは強いステロイドを長期にわたって大量に使っている場合で、小児のアトピーの7,8割をしめる軽症例で問題となることはほとんどありません。ステロイド外用剤の最近の使用法としては症状を抑えるためには治るまでしっかり外用を続けて、治ってから使用量を徐々に減らしていきます(プロアクティブ療法)。長期間外用しているにもかかわらず外用量が減らすことができない場合には、当初の使用量が十分かどうか、治る前に使用量を減らしていないか、悪化因子の対応ができているかを検討する必要があります。ステロイド外用剤をこわがりすぎると必要な量を使わずに及び腰で使ってしまい、ダラダラと使って症状もよくならずにステロイドの使用が減ることなく延々と続いてしまいます。毎回の診察の機会でステロイドに関して副作用を含めて事細かく説明することは通常はありませんので、気になる場合には一度主治医にお手隙な時間の診察中に相談されることをお勧めします。

2015/11/8


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