疾患の見極めと適切な対応が皮膚科・アレルギー科専門医としての大事な役割と考えています。
患者の皆さまの治療指針としてお役立ていただけるように下記のように整理しました。長期間皮膚科を受診していて、心配されている患者さんはCの難治例をご参照ください。当クリニックはアレルギー科を標榜していることからアトピー性皮膚炎の患者さんならびにアレルギー検査を希望される方が多くなっています。F、Gを参考にしていただければと思います。尚、初診時にどうしても適切な見極めができない場合や再診の途中で診立てを変える場合が時にはありますので、良くならない時、疑問を感じられる時こそ再診していただければと思います。
A.初診で診断が確定できて、短期間の治療で治癒もしくは自然軽快が期待できる疾患
1.治療で完治するもの
再診で治っているかどうかを確認します。完治しないうちに治療を止めてしまうと症状がくすぶることがあります。
例)虫刺され
2.治療しなくても自然に治るもの
経過観察するか対症療法で症状を和らげます。
例)(多くのウイルス感染による)急性発疹症、浅い傷跡、ジベルばら色粃糠疹
〇自然治癒するが、治療で早く治るもの
例)水ぼうそう、子どもの水いぼ、いぼ
子どもの水いぼ、いぼの治療は痛みを伴うため、治療を行なうか、経過観察にするか相談の上決めます。
3.治療で完治はするが、再発する(可能性がある)もの
例)水虫
B.再診で(経過観察もしくは検査結果によって)診断が確定できる疾患
1.臨床経過に特徴があるもの
再診を繰り返して診断します。
例)アトピー性皮膚炎、伝染性紅斑、ジベルばら色粃糠疹
2.検査で診断が確定するもの
例)梅毒、かぶれ、小麦依存性運動誘発アナフィラキシー、花粉-食物アレルギー症候群
C.難治例
1.診断はされている(一般的な疾患である)が、疾患の性質上、または(意図的に)原因を取り除くことができないため慢性に経過する場合
治療の継続もしくは経過を観察しますが、治療効果がなければ治療を中止します。
例)じんましん、(仕事に伴う)かぶれ、毛孔性苔癬
2.治療が不十分な場合
再診時、薬の使用状況をチェックの上適切な治療の説明・指導を行ないますが、十分に治療を行なっても改善しない場合は基幹病院に紹介します。
例)アトピー性皮膚炎、乾癬
3.悪化因子の除去が不十分な場合
詳細な問診を基に生活指導、必要な検査を行ないますが、きちんと実施しても改善しない場合は基幹病院に紹介します。
例)アトピー性皮膚炎、かぶれ
4.診断困難例
a.(初診時)すでに治療を受けている場合で、元の症状、治療内容が不明な場合
改めて前医の治療経過の情報を得た上で治療を行なう(経過観察する)か、前医での治療を継続してもらいます。
例)アトピー性皮膚炎、水虫
b.(再診時)受診が不定期(受診間隔が空きすぎる)ため治療効果の把握が困難な場合
短期間で再診していただいて治療を継続します。
例)アトピー性皮膚炎
c.(診断確定・悪化因子検索のために)精密検査を必要とする例
精密検査としては組織検査、詳細な血液検査、画像検査、負荷試験などが挙げられます。
(1)軽症(かつ症状が不変)もしくは対症療法で(完治はしないが)症状が改善する場合
経過観察、必要に応じて基幹病院に紹介します。
(2)症状が悪化し続けて、対症療法で症状が改善しない場合
基幹病院に紹介します。
d.他科の疾患が疑われる場合
専門医に紹介します。
D.重症例、もしくは重症化する可能性が高い場合、悪性腫瘍が疑われる場合、特別な治療薬が必要な場合
基幹病院に速やかに紹介します。
E.手術(外科的治療)・美容皮膚科的治療を必要とする場合
形成外科(もしくは基幹病院)・美容皮膚科に紹介します。
F.転医を繰り返す例(特にアトピー性皮膚炎)
1.セカンドオピニオンで来院している方
前医での治療経過の情報を提供していただきます。薬(お薬手帳)、検査結果を持ってきていただきます。
2.主治医を替えたい方
前医での治療経過の情報を提供していただきます。薬(お薬手帳)、検査結果を持ってきていただきます。
これらの情報がない場合にはゼロからの治療開始となるため、前医での治療期間が長い場合には治療をそのまま続けた方が良いことが多いのでその旨説明します。
3.検査だけ受けたい方(Gにて詳述)
検査のみの実施は保険外となり全額自己負担となりますので、主治医が変わらない場合には基本的には前医(主治医)で検査を行なってください。保険診療では原則として診療上必要な検査だけを行ないます。
4.不定期に複数の皮膚科を受診している方
治療歴が分からない状況で症状を見極めて適切な治療を行なうことはできません。特に症状が強い患者さんでは重症化する可能性が高くなりますので、主治医の皮膚科を一つだけ早急に決めて(短期間で繰り返し)定期的に受診してください。
G.アレルギー検査を受けたい方
1.血液検査
a.検査だけを受けたい方
保険外(全額自己負担)でご希望の検査(ただし検査項目は限られます)を受けることができます。
b.通常の診療(保険診療)で検査を受けたい方
問診と診察時の症状(ご持参の写真を含む)をもとに必要な検査を行ないます。診察でアレルギーの可能性がない(低い)と考えられた場合にはその理由を説明した上で検査は行ないません。
それでもどうしても検査を受けたい方は1.aに準じて保険外で受けることはできます(ただし、その場合には診察費も全額自己負担となります)。
2.パッチテスト
a.かぶれの原因検索
治らない湿しんの原因検索として必要に応じて現物(使用しているもの)や試薬(香料・金属・ゴム・樹脂・防腐剤など)を用いて検査を行ないます。
原則的には3日間入浴ができなくなり、2日後、3日後にも再診していただきます。必要に応じて7日後もチェックします。
b.歯科金属アレルギーの検索
銀歯のある方で口の中がただれたり、手足や全身に皮疹が出ている場合には原因検索として行ないます。
〇現在当クリニックで実施しているパッチテストについて
シャンプー、石けん、化粧品など患者さんにご持参いただいた現物、もしくは24種類のジャパニーズスタンダードアレルゲン(完全予約制でのみ実施)を使用するパッチテストのみ行なっています。歯科金属アレルギーのパッチテストは行なっておりません。
☆ジャパニーズスタンダードアレルゲン
硫酸ニッケル(金属、食品)、ラノリンアルコール(化粧品)、フラジオマイシン塩酸塩(医薬品)、重クロム酸カリウム(金属)、カインミックス(医薬品)、香料ミックス(化粧品)、ロジン(樹脂)、パラベンミックス(防腐剤)、ペルーバルサム(化粧品)、金チオ硫酸ナトリウム(金属)、塩化コバルト(金属)、
p-tert-ブチルフェノール-ホルムアルデヒド樹脂(樹脂)、エポキシ樹脂(樹脂)、カルバミックス(ゴム)、黒色ゴムミックス(ゴム)、イソチアゾリノンミックス(防腐剤)、メルカプトベンゾチアゾール/メルカプトミックス(ゴム)、パラフェニレンジアミン(化粧品)、ホルムアルデヒド(防腐剤)、チメロサール(防腐剤)、チウラムミックス(ゴム)
ウルシオール(植物、日用品)、塩化第二水銀(医薬品、日用品)
◯先だって症状の強いアトピー性皮膚炎の幼児で血液検査を行なったところ、IgE(RIST)、TARCが異常高値であるにもかかわらず、検査した4項目( ハウスダスト、ダニ、ピティロスポリウム、黄色ブドウ球菌)のRASTの数値がそれほど高くなかったため、RISTの異常高値の原因となっているアレルゲンを検索すべくView39を調べました。その結果、ミルクは強陽性ではあったものの、卵、小麦、大豆、甲殻類など主な食物アレルギーに関するものは正常値でした。ところが、豚肉、牛肉、ネコ、イヌで強陽性であったことからpork-cat syndrome(の予備軍)が疑われました。実際に犬を飼っていて、隣家には猫がいることも確認できましたが、これまでは(加熱した)豚肉、牛肉に関してはアレルギーの症状が出たことはありませんでした。尚、乳製品によるアレルギー症状も見られていません。今後のフォローを考えて、再度RAST を測定しましたが、イヌ(クラス6)、ネコ(クラス4)、豚肉(クラス4)、牛肉(クラス3)でした。
◯当初はステロイドの外用でなかなか良くならなかったアトピー性皮膚炎の症状も犬を飼わなくなってから軽快しています。
◯pork-cat syndromeは発症年齢が10歳以降のことが多いのですが、最近6歳の報告例が見られたり、今回の予備軍のケース(たまたま検査から判明)からもわかるように、(不定期に訪れる犬、猫のペットブームのさなか)アトピー性皮膚炎としてのみ治療されていて、意外と気づかれずにいることが少なくないのかもしれません。
2020/10/19
◯当クリニックはアレルギー科を標榜していることもあり、アレルギー検査(血液検査)について絶えず電話でお問い合わせをいただいています。その多くは「(初診時に)検査をしてもらえますか?」というものですが、「診察したうえで検査をするかどうか決めています」とお答えしていますので多くの方は受診には至りません。保険診療においては(患者さんの自己申告のみで)実際に診察で症状が確認できない場合や(問診から)アレルギーが原因と考えられない場合には検査を行ないません。
◯アレルギー性の皮膚症状はアレルゲンに曝露されたときに一過性に症状がでますので、多くの場合受診時にはほとんど症状がありません。そのため症状が見られた時に写真を撮って記録されることが症状の確認の一助になります。
◯ここでご留意していただきたいことは、保険外診療(患者さん10割負担)なら調べられるものであればいつでも検査をすることができるということです。つまり、「保険外でも構いませんので、検査をしてもらえますか?」という問い合わせであれば、即「検査できます」とお答えします。
◯テレビの情報バラエティーで多項目のアレルギー検査がよく紹介されており、その影響で受診される方もいらっしゃいますが、多項目のアレルギー検査を保険診療で行なうのはごく一部の患者さんに限られますのでご了解ください。ご参考までにView39(39項目のアレルギー検査)を初診で保険外診療(10割負担)で行なう場合の料金は18970円(2020.9.1.現在)となっています。尚、保険外診療の料金は病院ごとで異なりますのであらかじめお問い合わせください。
2020/9/1
◯この数か月でナッツアレルギーの患者さんを二人診る機会がありましたが、今後の診療に活かすべき示唆に富んでいました。
◯1例目は、ピーナッツを食べた後に蕁麻疹が出ることから検査をしたところピーナッツのIgEが疑陽性(クラス1)で、一緒に調べたリンゴのIgEも疑陽性(クラス1)でしたので、元々花粉症がみられていたこととあわせて花粉-食物アレルギー症候群と診断しました。ピーナッツを控える程度で、その他のナッツアレルギーに関して積極的な検査を行なわずに経過を観ていました。これからいろいろなナッツを食べる機会があれば、その結果を元に必要に応じて検査を行ない整理していけばいいかなと考えていました。ところがその後カシューナッツの入ったカレーを食べて強いアレルギー症状が見られ、基幹病院を受診してカシューナッツのアレルギーが確認されてエピペンを処方されていました。本来ピーナッツのアレルギーコンポーネントAra h 2を調べたり、その他のナッツについても調べておくべきでした。
◯2例目は、クルミの載ったケーキを食べた直後にじんましん、呼吸困難が現れたとのことで、クルミアレルギーの血液検査を直ちに行ないました。クルミのIgEは疑陽性(クラス1)でしたが、クルミのアレルギーコンポーネントJug r 1が陽性(クラス2)で診断を確定しました。このように最近はピーナッツ、カシューナッツ(Ana o 3)、クルミに関しては血液検査でアレルギーコンポーネントを調べて高い精度でアレルギーを検出することができるようになりました。
◯今回のナッツアレルギー2症例について、1例目からは状況によってはナッツアレルギーの交差反応を積極的に検査しておくべきということ、2例目からは患者さんからの情報が如何に大事かということ、問診の重要性を再認識しました。
2020/8/4
〇コロナ禍におけるPCR検査拡充の賛否についてはメディアを通して今なお侃々諤々と意見が飛び交っています。コロナ患者との濃厚接触者や症状の見られる人など、検査が必要な人に対して積極的に行なうべきというのが専門医の主な意見ですが、諸外国を引き合いに出してやみくもに検査を行なうべきという意見も依然根強くあります。
〇アレルギー診療における血液検査に関しても以前から似たようなことがあります。専門医はアレルギーの疑いのある患者さんに必要な血液検査しか行なわないため、とにかく検査をして原因を知りたいという患者さんとの間には埋めがたいギャップが存在します。実際にアレルギーが心配になって受診された患者さんと診察中に検査をするしないで押し問答になることもあります。
〇ひとつ誤解しないでいただきたいのは、保険診療ではやみくもにアレルギー検査を行なえないというだけで、保険診療でなければ(全額自己負担であれば)検診と同じで、いつでも調べたいだけアレルギー検査を行なえるということです[もちろん費用はかなり高くなりますが]。
〇つい先だってアレルギー性鼻炎の症状のみられる(自己申告で、診察時には確認できず)患者さんに季節柄イネ科のアレルギー検査を行なったところ陰性でした。患者さん自身は「毎年なるから」とイネ科のアレルギーを確信されていましたが、イネ科のアレルギーはないものと判断しました。PCR検査と同様にアレルギー検査の感度は100%ではありませんので、フルーツなどを食べてアレルギー症状が見られた場合や鼻炎の症状を直接確認できた時には再度検査が必要と考えています。
〇また、同じくらいの時期にネコに触れると皮膚が赤くなるということ(自己申告で、診察時には確認できず)でネコアレルギーを心配した患者さんが受診されました。時間が経ってから症状が出ること、結膜炎、鼻炎、ぜんそくなどの症状が見られていないことから当初はアレルギーの可能性は低いものと考えましたが、ネコに触れた時にしか症状がでないということでネコのアレルギー検査をしたところ陽性でした。尚、検査結果を説明する時に改めてお話を聞いたところ、ネコに触れた直後にかゆくなり、鼻炎、結膜炎の症状も出るとのことでした。
〇後者のように正しく情報を伝えていただいてアレルギーが確認できることもありますので、診察時に症状を直接確認できていなくても今回の2例のように検査を行なうことはあります。ただし、患者さんの自己申告による情報にはバイアスがかかり、前者のように実際に検査を行なっても陽性にならないことが多いので、(保険診療で)検査をすべきかどうかいつも頭を悩ませています。
2020/6/4