アトピー便り

アトピー便り125:アトピー治療におけるクリニカルイナーシャ

アトピー患者さんの症状が悪化するケースが段々と増えてきています。季節の変化に伴う皮膚の乾燥、衣類の刺激、入浴時の習慣、ストレス、ハウスダストのアレルギーなど、様々な悪化因子はありますが、湿疹そのものが一番の悪化因子と言われています。湿疹があればかゆみでひっかくことでさらに皮疹は悪化しますので完全に症状を抑え込むことが必要です。症状の軽い患者さんの場合は皮膚症状に応じたリアクティブな治療で問題ありませんが、症状がひどくなりますと集中的に継続して治療する必要があります。症状の強いアトピー患者さんで定期的に通院していただいていながらあまり症状が改善していないケースの多くは治療(外用剤の強さ、使用量)が十分に足りていません。ここで問題となるのはまさに「クリニカルイナーシャ」です。高血圧や糖尿病などの治療でコントロールが不十分な際によく用いられる言葉で、「臨床的惰性」、「臨床的慣性」などと訳されます。アトピー治療においては症状に応じた外用剤の治療が行なわれない,あるいは十分に皮疹がコントロールされていないにもかかわらず治療が強化されない状態を指します。クリニカルイナーシャは医療費や副作用の懸念、時間的制約、薬が増えることへの抵抗感、医師患者間の意思疎通(コミュニケーション)の不足など、医療者側、患者側、医療制度上のさまざま要因によって起こりえます。難治性(ならびに重症)のアトピー性皮膚炎の治療においてもクリニカルイナーシャの克服は重要な課題です。他に主治医がいながら予約がとれない、待ち時間が長いからと不定期に当クリニックに来られる患者さん、仕事でなかなか受診できないということで長期間の受診間隔になっている患者さん、診察終了時間間際に駆け込みで受診される患者さんにおかれましては、先ずは時間的制約を取り除くことが第一歩と考えます。

(蛇足)周辺に混み合う皮膚科がいくつもあるためか、他医を受診していながら諸般の事情で不意に当クリニックに来られる患者さんが後を絶ちません。ほとんどの場合何事もなかったように受診されますが、問診票や過去のカルテの記載内容、お薬手帳の不提出ならびにその時の症状、雰囲気などでそれとなく分かります。皮疹の推移、治療経過、検査所見などを正しくお伝えいただかないときちんと治療できませんが、わざわざ当クリニックを受診していただいていますのでつなぎとして必要最低限の処方(もしくはこちらで行なった以前の処方)だけは機械的に行なうようにしています。中には長期間や大量の処方を希望されたり、処方の内容を指定されたりする患者さんがいらっしゃいますが、原則としてはご要望にはお応えしておりません。尚、(診断・治療方針を含めた)治療は主治医の皮膚科に一本化した方が宜しいので、こちらから詳しくチェックや説明をしたり、検査をしたりすることはありません。たまに勘違い、思い違いがありますので、(間を空けずに定期的に)当クリニックだけを受診しているにもかかわらずきちんと診てもらっていない(と感じる)場合は診察時にご遠慮なくお申し出ください。また、改めて説明を詳しく聞きたい場合、セカンドオピニオンを求めたい場合、こちらを主治医に変えたい場合にもお気軽にその旨をお伝えください。

2024/12/1

 

 

 


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