アトピー便り

アトピー便り89:意外とある?!pork-cat syndrome

先だって症状の強いアトピー性皮膚炎の幼児で血液検査を行なったところ、IgE(RIST)、TARCが異常高値であるにもかかわらず、検査した4項目( ハウスダスト、ダニ、ピティロスポリウム、黄色ブドウ球菌)のRASTの数値がそれほど高くなかったため、RISTの異常高値の原因となっているアレルゲンを検索すべくView39を調べました。その結果、ミルクは強陽性ではあったものの、卵、小麦、大豆、甲殻類など主な食物アレルギーに関するものは正常値でした。ところが、豚肉、牛肉、ネコ、イヌで強陽性であったことからpork-cat syndrome(の予備軍)が疑われました。実際に犬を飼っていて、隣家には猫がいることも確認できましたが、これまでは(加熱した)豚肉、牛肉に関してはアレルギーの症状が出たことはありませんでした。尚、乳製品によるアレルギー症状も見られていません。今後のフォローを考えて、再度RAST を測定しましたが、イヌ(クラス6)、ネコ(クラス4)、豚肉(クラス4)、牛肉(クラス3)でした。
当初はステロイドの外用でなかなか良くならなかったアトピー性皮膚炎の症状も犬を飼わなくなってから軽快しています。
pork-cat syndromeは発症年齢が10歳以降のことが多いのですが、最近6歳の報告例が見られたり、今回の予備軍のケース(たまたま検査から判明)からもわかるように、(不定期に訪れる犬、猫のペットブームのさなか)アトピー性皮膚炎としてのみ治療されていて、意外と気づかれずにいることが少なくないのかもしれません。

2020/10/19

アトピー便り88:ナッツアレルギーは難しい

この数か月でナッツアレルギーの患者さんを二人診る機会がありましたが、今後の診療に活かすべき示唆に富んでいました。
1例目は、ピーナッツを食べた後に蕁麻疹が出ることから検査をしたところピーナッツのIgEが疑陽性(クラス1)で、一緒に調べたリンゴのIgEも疑陽性(クラス1)でしたので、元々花粉症がみられていたこととあわせて花粉-食物アレルギー症候群と診断しました。ピーナッツを控える程度で、その他のナッツアレルギーに関して積極的な検査を行なわずに経過を観ていました。これからいろいろなナッツを食べる機会があれば、その結果を元に必要に応じて検査を行ない整理していけばいいかなと考えていました。ところがその後カシューナッツの入ったカレーを食べて強いアレルギー症状が見られ、基幹病院を受診してカシューナッツのアレルギーが確認されてエピペンを処方されていました。本来ピーナッツのアレルギーコンポーネントAra h 2を調べたり、その他のナッツについても調べておくべきでした。
2例目は、クルミの載ったケーキを食べた直後にじんましん、呼吸困難が現れたとのことで、クルミアレルギーの血液検査を直ちに行ないました。クルミのIgEは疑陽性(クラス1)でしたが、クルミのアレルギーコンポーネントJug r 1が陽性(クラス2)で診断を確定しました。このように最近はピーナッツ、カシューナッツ(Ana o 3)、クルミに関しては血液検査でアレルギーコンポーネントを調べて高い精度でアレルギーを検出することができるようになりました。
今回のナッツアレルギー2症例について、1例目からは状況によってはナッツアレルギーの交差反応を積極的に検査しておくべきということ、2例目からは患者さんからの情報が如何に大事かということ、問診の重要性を再認識しました。

2020/8/4

アトピー便り87:アレルギー検査/すべきかどうか

コロナ禍におけるPCR検査拡充の賛否についてはメディアを通して今なお侃々諤々と意見が飛び交っています。コロナ患者との濃厚接触者や症状の見られる人など、検査が必要な人に対して積極的に行なうべきというのが専門医の主な意見ですが、諸外国を引き合いに出してやみくもに検査を行なうべきという意見も依然根強くあります。
アレルギー診療における血液検査に関しても以前から似たようなことがあります。専門医はアレルギーの疑いのある患者さんに必要な血液検査しか行なわないため、とにかく検査をして原因を知りたいという患者さんとの間には埋めがたいギャップが存在します。実際にアレルギーが心配になって受診された患者さんと診察中に検査をするしないで押し問答になることもあります。
ひとつ誤解しないでいただきたいのは、保険診療ではやみくもにアレルギー検査を行なえないというだけで、保険診療でなければ(全額自己負担であれば)検診と同じで、いつでも調べたいだけアレルギー検査を行なえるということです[もちろん費用はかなり高くなりますが]。
つい先だってアレルギー性鼻炎の症状のみられる(自己申告で、診察時には確認できず)患者さんに季節柄イネ科のアレルギー検査を行なったところ陰性でした。患者さん自身は「毎年なるから」とイネ科のアレルギーを確信されていましたが、イネ科のアレルギーはないものと判断しました。PCR検査と同様にアレルギー検査の感度は100%ではありませんので、フルーツなどを食べてアレルギー症状が見られた場合や鼻炎の症状を直接確認できた時には再度検査が必要と考えています。
また、同じくらいの時期にネコに触れると皮膚が赤くなるということ(自己申告で、診察時には確認できず)でネコアレルギーを心配した患者さんが受診されました。時間が経ってから症状が出ること、結膜炎、鼻炎、ぜんそくなどの症状が見られていないことから当初はアレルギーの可能性は低いものと考えましたが、ネコに触れた時にしか症状がでないということでネコのアレルギー検査をしたところ陽性でした。尚、検査結果を説明する時に改めてお話を聞いたところ、ネコに触れた直後にかゆくなり、鼻炎、結膜炎の症状も出るとのことでした。
後者のように正しく情報を伝えていただいてアレルギーが確認できることもありますので、診察時に症状を直接確認できていなくても今回の2例のように検査を行なうことはあります。ただし、患者さんの自己申告による情報にはバイアスがかかり、前者のように実際に検査を行なっても陽性にならないことが多いので、(保険診療で)検査をすべきかどうかいつも頭を悩ませています。

2020/6/4

アトピー便り86:転医される前に

アトピー性皮膚炎の患者さんで症状が良くならないので病院を転々とされる方がいらっしゃいます。何とか治したいというお気持ちはよくわかりますが、受診のされ方によっては却ってマイナスになることもあります。「後医は名医」という言葉がありますが、後から診察する医者の方がいろいろ情報が多くなり、適切な診断、治療を行なうことができるというものです。ところが、転医される際初診時にそれまでの治療経過や症状の推移がきちんと伝わりませんと誤診につながり、症状の改善は期待できません。転医の際に(過去の治療薬や検査結果などの情報もなく)皮疹を診てもらうだけなら元の医師の再診を受けられる方が効果的です。単に「前の病院で良くならなかったので来ました」とか、「治療しても良くならなかったので検査をしてください」と言って来院される患者さんが少なからずいらっしゃいますが、この点には是非ともご留意ください。
一方で、皮膚科医の立場からアトピー性皮膚炎の患者さんすべての方に初診時に同じように詳しく説明をすることは現実的にはなかなかできません。先ずは患者さんの現状に応じた説明・治療を行ない、再診時に症状を確認して治療を続けたり、変えたりしながら、必要に応じて説明を付け加えていくことになります。重症の患者さんには初診時に検査をしたり、細かく外用剤の塗り方を説明したりしますが、軽症の患者さんには再診時に症状の改善が見られない場合に外用剤の塗り方など詳しく説明していきます。このようにアトピー性皮膚炎の診療では患者さんによって対応が異なり、再診を重ねて長期的に診ていくのが一般的ですので、初診時、再診時を問わず、その時点で気になることをいくつか整理されて優先順位の高いものから診察時にお問い合わせいただくことをお勧めします。

2020/1/30

 

アトピー便り85:大人の卵アレルギー?!

卵アレルギーといえば、小児の病気、重症の場合に限り小児期から継続することはあっても大人で起こることはないと思っていました。ところが、先だって出席した日本皮膚免疫アレルギー学会のシンポジウムで、セキセイインコなどの鳥類を飼っている間に羽根や糞に気道感作されて、卵黄摂取後にアナフィラキシーを起こすbird-egg syndromeという病気の存在を知って驚きました。
長年セキセイインコを飼っている状況で、通常の卵アレルギーのアレルゲンである卵白ではなく、卵黄が原因で起こること、セキセイインコを飼わないで過ごすと治る可能性があるとのことでした。実際の症例では鶏肉アレルギーも見られ、セキセイインコが亡くなってから症状がみられなくなったことが紹介されていました。
卵を食べると調子が悪くなるとのことで卵アレルギーを心配して受診される患者さんが時々にいらっしゃいますが、再現性、即時性がみられないことからその可能性がない旨をその都度説明をしてきました。しかも大人で発症する卵アレルギーはないことを前提にお話していました。これからの診療では大人の卵アレルギーもありうるという前提で鳥の飼育歴については最低限チェックしなければならないと思いました。

2019/12/3

 

 

 


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