アトピー便り
◯今回は(4)検査をしてもらったことがないので根本から治したいから検査をして原因を見つけたい。 を検証します。多くのアトピー性皮膚炎の患者さん、親御さんは、ステロイドの外用剤を長期間使いながら良くならなかったり、再発を繰り返したりしていますので、ステロイド外用剤を塗るだけでは治らない、止めるとリバウンドする、このまま続けていくと副作用が怖い、と考えるようになります。そこできちんと治すには原因を見つけること、ひいては検査が必要と考えます。
◯アトピー性皮膚炎は皮膚バリア機能の低下とアレルギーが二つの主な発症因子として考えられていますが、乳幼児では皮膚バリア機能の低下が原因でアトピー性皮膚炎さらには食物アレルギーが発症すると最近になって考えられるようになりました。つまり食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の原因というよりも乾燥肌やアトピー性皮膚炎の治療が不十分なために食物アレルギーが起こるというわけです。
◯乳幼児のアトピー性皮膚炎の診療においては食物アレルギーの検査をしてほしいと親御さんに言われることがしばしばありますが、先の考え方に従えばいきなり食物アレルギーの検査をすることよりも適切な治療やスキンケアを十分に行なうことの方が大事です。適切な治療を行なっていれば症状が良くならなかったり、再発したりすることはあまりありませんし、ステロイドのリバウンドや副作用を心配することもありません。実際に良くならないと言われる患者さんの多くは治療が不十分で、しっかりと治療を続ければたいていは良くなります。
◯しかしながら、一部の患者さんでは治療をきちんと続けながら良くならない場合もありますし、明らかにアレルギーが疑われるエピソードが見られる場合、重症の場合には積極的に検査を行なって悪化因子の検索(乳幼児では食物アレルギーの検査)を行なう必要があります。
◯皮膚科、特にアレルギー科を受診すればアレルギー検査を好きなように受けられると思っている方が多いのですが、(3割自己負担の)保険診療では(診察時に確認できる)症状、経過から検査が必要と主治医が考えた場合に必要な項目だけを調べます。検診と同様、患者さんが気になる項目を調べる場合全額自己負担であれば好きなだけ自由に調べることができます。その場合には保険診療ではありませんので、検査の費用や実施の有無は医療機関によって異なりますのであらかじめお問い合わせされることをお勧めします。
2016/4/3
◯今回は(3)タクロリムス軟膏は塗った後痒くなるので使いたくない。 を検証します。日本皮膚科学会が作成したアトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、薬物療法としてステロイド外用薬とタクロリムス(商品名プロトピック)軟膏が記載されています。アトピー性皮膚炎の治療においては軽症から重症に至るまで幅広く対応する必要がありますので5種類の強さに分かれるステロイド外用薬が薬物療法の中心となりますが、タクロリムス軟膏の長所はステロイド外用薬にみられる長期連続使用に伴う皮膚萎縮を起こさないという点です。また、顔、首などステロイド外用薬の副作用の現れやすい部位の皮疹の治療には最適です。
◯タクロリムス軟膏のステロイド外用薬に劣る点としては、ステロイド外用薬に比べてストロングとマイルドの強さに匹敵する2種類しかありませんので、ベリーストロング以上の強さのステロイド外用薬のように重症のアトピー性皮膚炎を治すことは困難です。
◯そこで実際の診療で一番問題になる冒頭のタクロリムス軟膏の刺激症状ですが、タクロリムス軟膏の外用は顔、首を中心に行なわれ、成人の約8割、小児の約5割にほてり感やヒリヒリ感、痛みや痒みなどの症状がみられます。患者さんによっては就寝前の外用後眠れないということで使用中止に至るケースも珍しくありません。その場合にステロイド外用薬をだらだらと続けますと副作用の心配がありますし、治療をしないままだと皮疹は悪化し続けますので何とかしてタクロリムス軟膏の外用を続けるようにしたいものです。タクロリムス軟膏の刺激症状は入浴により増すことがあるので、他の外用薬とは分けて入浴後30分以上経ってから外用すると軽減する可能性があります。タクロリムス軟膏の刺激症状は多くの場合には皮疹の軽快に伴って数日以内に軽くなりますので余程強い症状でなければタクロリムス軟膏を適量塗り続けることが大事です。刺激症状のために塗ったり塗らなかったりであったり、外用量を減らしたりしますと皮疹が改善しないので刺激症状だけが残り続けてしまいます。どうしても刺激症状が強すぎて我慢できない場合には数日間ステロイド外用薬を塗っていったん症状を良くしてからタクロリムス軟膏に替えると刺激症状は激減します。タクロリムス軟膏はステロイド外用薬に次ぐアトピー性皮膚炎の治療薬であり、特に顔、首の治療においては第一選択となります。予防的に外用を続けるプロアクティブ療法でも有効です。刺激症状のためにタクロリムス軟膏の外用を中止している患者さんは今一度皮膚科専門医の主治医と相談されてタクロリムス軟膏の外用を再開されることをお勧めします。
2016/1/19
◯前回に引き続いて今回は(2)ステロイドの塗り薬は副作用がこわいので使いたくない。 を検証してみましょう。アトピーの患者さん、親御さんを診察したり、お話したりする中で最近でも最も多いのがステロイドを敬遠されることです。周りの人から聞いたからとか、漠然ととかで、明らかな根拠もなく使用を避けたいと言われます。副作用について具体的な経験はなく、どのような副作用があるのかもほとんどの方はご存じありません。
◯小児のアトピーは7,8割は軽症ですので、よほどこじらせない限りステロイドを十分に使わなくても多くは軽快していきます。ところが残りの2,3割の症状の目立つ小児ではきちんとステロイドを使って症状をコントロールしたり、悪化因子の対策を講じないと重症になってしまい、ひいては大人になっても症状が続いてしまいます。一方で一旦治っても大人になってから症状が再発することも珍しくありません。ご自身の経験に基づいてステロイドの使用に否定的な(患者さんの)周りの方々はたいていの場合軽症例か、ステロイドを正しく使わなかったために症状が遷延してコントロールが不十分だったケースであると感じています。
◯当クリニックでも成人のアトピー性皮膚炎患者さんでは比較的重症の方も多く来院されていますが、ステロイドを大量に長期連用しているケースも多く、中にはステロイドの副作用である毛嚢炎や単純ヘルペスなどの感染症や皮膚萎縮などの副作用が見られることもあります。このような例ではステロイドを大量に使ってはいますが、症状を抑えるために1回に必要な量をその都度使っていないことがほとんどです。皮膚萎縮に対してはタクロリムス軟膏などのステロイドでない外用剤に変更しますし、(基幹病院に紹介させていただいて)紫外線療法、免疫抑制剤の内服療法など、治療の変更を検討する場合もあります。アトピーの重症例では治療を強力に行なうだけでなく、アレルギーの程度(RIST)、悪化因子(RAST)やアトピーの症状の程度(TARC)を血液検査で調べたり、パッチテストでかぶれの原因となるものがないかどうか調べたりする必要があります。全身のアトピー性皮膚炎の重症例になりますとこのような検査も含めて治療が十分にできていないことも多く、基幹病院に治療を依頼して入院となるケースもあります。
◯いずれにせよ、皮膚科の専門医であればステロイドの副作用を意識して、確認しながらステロイド外用剤を使用しています。実際にステロイド外用剤の副作用が問題となるのは強いステロイドを長期にわたって大量に使っている場合で、小児のアトピーの7,8割をしめる軽症例で問題となることはほとんどありません。ステロイド外用剤の最近の使用法としては症状を抑えるためには治るまでしっかり外用を続けて、治ってから使用量を徐々に減らしていきます(プロアクティブ療法)。長期間外用しているにもかかわらず外用量が減らすことができない場合には、当初の使用量が十分かどうか、治る前に使用量を減らしていないか、悪化因子の対応ができているかを検討する必要があります。ステロイド外用剤をこわがりすぎると必要な量を使わずに及び腰で使ってしまい、ダラダラと使って症状もよくならずにステロイドの使用が減ることなく延々と続いてしまいます。毎回の診察の機会でステロイドに関して副作用を含めて事細かく説明することは通常はありませんので、気になる場合には一度主治医にお手隙な時間の診察中に相談されることをお勧めします。
2015/11/8
◯患者さんの中には症状が良くならないためにいくつもの皮膚科を次々と受診される方がいらっしゃいますが、このような受診行動をwandering(ワンダリング)[日本語では彷徨うという意味]と呼びます。皮膚科ではアトピー性皮膚炎の患者さんで最も多く見られますが、その他の疾患でもしばしば見られます。完全に治したい、できるだけ早く治したいという患者さんのお気持ちはよくわかりますが、ワンダリングは患者さんにとって必ずしも効果的ではなく、どちらかと言えば不利益につながることが多いと思われます。
◯アトピー性皮膚炎でよく見られるワンダリングを繰り返している患者さんの訴えとしては、(いくつもの皮膚科に診てもらったけど) (1)どこも塗り薬を出すだけでよくならない。 (2)ステロイドの塗り薬は副作用がこわいので使いたくない。 (3)タクロリムス軟膏は塗った後痒くなるので使いたくない。 (4)検査をしてもらったことがないので根本から治したいから検査をして原因を見つけたい。 (5)説明をしてくれない(話を聞いてくれない)。 (6)(番外編)以前に診てもらっていた皮膚科の待ち時間が長いから薬だけ出して欲しい。 などが挙げられます。
◯そこで今回は (1)どこも塗り薬を出すだけでよくならない。 を検証してみましょう。アトピー性皮膚炎の治療の塗り薬はステロイド外用剤を中心に、一部タクロリムス軟膏を使います。ステロイド外用剤は強さが5段階に分かれていて、同じステロイド外用剤でも種類によって効果が違います。ステロイド外用剤の強さ、一回に塗る範囲・量、塗っていた期間、また、その時々で症状が軽かったり、重かったりしますので、いろいろな皮膚科で行なわれてきた治療を同じステロイド外用剤の治療と言ってその効果をひとくくりで評価することはできません。先ずはそれまで行なっていた外用治療の内容をきちんと整理して、できれば日記のように書き留めておくことが重要です。内容を書き留めておくと、皮膚の症状と併せて見れば治療が十分かどうかが分かります。多くの場合はステロイドを怖がりすぎて十分に治療ができていません。弱い薬や少ない量をダラダラ続けているか、少し良くなっただけで急に治療を止めてしまい症状が良くならずに悪くなっているケースがほとんどです。
◯正しくきちんとステロイド外用剤を続けて塗っていても良くならない場合には症状が悪くなる原因(ハウスダスト・ダニなどのアレルギー、ストレス、汗、乾燥、金属アレルギーなどのかぶれ、石けん・シャンプー・化粧品などの生活習慣に伴うトラブルなど)があってその対策ができていないか、細菌感染やウイルス感染などの合併症が見られているかのいずれかが考えられます。
◯アトピー性皮膚炎の治療で大事なことは治療のゴールを確認しておくことです。症状の軽い方は完治もしくはたまに付け薬を塗る程度で症状をコントロールすることが十分可能ですが、重症の方は短期間での治癒をめざすのではなく、治療を続けながら痒みなどで日常生活の質を下げることなく症状をコントロールしていくことが大事です。セカンドオピニオンや医者との相性などもあって医者を替えることは必ずしも悪いことではないと思います。「後医は名医」という言葉もあるように後から診る医者の方がいろいろ情報も多く有利な点も少なからずあります。しかし、ワンダリングを繰り返す患者さんは過去の治療や症状の推移、検査データなどを後医にきちんと伝えることがあまりないため後医は患者さんの正しい状況を把握できません。その結果前医よりも良い治療結果を残すことはなかなかできません。最終的には一人の主治医のもとでいろいろ相談しながら治療を続けていくことをお勧めします。
2015/9/18
◯気温の低下とともに皮膚のトラブルも少なくなり、外来を受診される患者さんも落ち着いてきました。夏休み期間中は例年通り、あせも、手足口病やとびひなどこの時期特有の疾患が多く見られました。
◯アトピー性皮膚炎を含めてこの時期に症状の悪化する患者さんは汗の影響を受けていることが多く、金属アレルギーのある方は特に注意が必要です。毎年夏にだけ湿しんが出て、治療を繰り返している患者さんがいらっしゃいますが、そのうちの多くは金属アレルギーが疑われます。アクセサリーやベルトのバックル、ジーンズのボタンなどで赤くなったり、かゆくなったりしたことのある方はよりその可能性が高くなります。診断を確定するにはパッチテストが必要となりますが、数日間お風呂に入れませんので通常は冬場に行ないます。夏場に湿しんを繰り返す方で原因を特定されたい場合には冬場に金属アレルギーのパッチテストを行なうと原因が見つかるかもしれません。
◯以前にもお伝えしていますが、アレルギー検査につきましては症状の確認できる方で必要な検査は保険診療(3割負担)で行なっています。患者さんの自己申告だけで症状が確認できない場合および病気の診断、治療上アレルギー検査が必要でない場合には自費(全額患者さん負担)で検査を行なうことができます。
2015/9/1
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