アトピー便り

アトピー便り59:すでに皮膚科で治療を受けられている患者さんへ 転医の前に

アトピーの患者さんは初診時にすでに他の皮膚科にかかっていることが多いのですが、診察の際にそのことをきちんと伝えてもらえないことがあります。(1)いつものお医者さんが混み合っていたからお薬だけもらいたいのか、(2)前の皮膚科で良くならなかったから病院を替えたのか、(3)治療は問題ないが検査だけしてもらいたくて来られたのか、受診目的によって対応も異なります。患者さんの要望と医師側の対応にずれが生じることも多く、その点にはご留意いただきたいと思います。
先ず(1)に当てはまる患者さんについてですが、「大量に薬を出して欲しい」あるいは「同じ薬を出して欲しい」とたいていの場合は言われます。いずれもご要望にそのまま応えることはできません。大量に処方するのは経過が安定していて受診間隔を空けても問題がない場合と重症でしっかり治療して短期間で再診をしていただく場合に限ります。処方する薬については病院ごとで用意している薬が異なります。診察を重ねている医師と初診の医師とでは病状の把握に通常はかなり差があります。従って今までの治療に十分満足しておられる場合は少々時間がかかっても前医で治療を続けられることをお勧めします。薬の処方を強く望まれる患者さんには当クリニックでは短期間分の薬をつなぎとして処方しています。
(2)に関しては、良くならないという患者さんの認識に幅があり、現状を正確に把握しなおす必要があります。医師の十分な説明・指示がないのか、医師の指示通り治療しても治らないのか、医師の指示を十分に守っていないために治らないのか、一度治った(良くなった)が再発したのか、一度治って(良くなって)別の症状が出たのか、治療後の治り跡を患者さんが治っていないと思っているのかなど、状況はさまざまですが、きちんと現状を把握することが不必要なドクターショッピングを繰り返さないためには必要です。転医は多くの場合治療をゼロからリセット(もしくはマイナスからリスタート)することになりますので、医師の十分な説明・指示がない、医師の指示通り治療しても治らない場合を除いてはお勧めできませんただし外来の繁忙期、診療時間の終了間際の受診などでは患者さんに十分に説明できないことがありますので時間に余裕があるときに改めて説明・指示を求められると良いでしょう。指示通りにしても治らない場合には直接医師にその旨を伝えて指示通りにできているか改めて確認してもらうか、治療を変更してもらうと良いでしょう。当クリニックでも初診時にこれらのことを説明させてもらっていますが、「折角来たのに・・・」と患者さんのご理解を得られない場合も多々あります。転医先で外来終了時間間際にしか受診ができなかったり、数カ月~半年ごとにしか再診できなかったりするのであれば転医はしない方が良いと思います。頻回に(必要時にいつでも)受診できる環境になければ前医以上の成果は期待できません。
(3)についてはアレルギー科を標榜していますので、治療は現状で問題ないが原因を知りたいのでアレルギー(血液)検査だけしてほしいと言われる方が少なからずいらっしゃいます。症状の経過も分からず、症状の確認もなくアレルギー検査だけを行なうのは保険診療の対象とはなりませんので全額自己負担となります。つまりアレルギー検査希望で来院される方の多くは保険診療の対象外です。検査希望で来院されるほとんどの方は保険診療で自由にアレルギー検査ができるものと思われて受診されていますので先ずそのことから説明しなければなりません。アトピーでは先ずステロイド外用剤をきちんと塗っても良くならない場合に悪化因子の検索として必要最低限の検査を行ないますその結果を踏まえて更なる検査を行なう必要があるかどうかを判断します。通常はアトピー患者さんの初診時に保険診療でアレルギー検査をすることはありませんが、初診時にすでに重症で今までに一度もアレルギー検査を行なっていない場合には積極的に行ないます。全額自己負担であればいつでもアレルギー検査はできますが、今までに実際に検査を行なったケースで役に立ったことはほとんどありません。必要な検査であれば保険診療の対象となりますので通常はこちらから検査をお勧めします
定期的に(間を空けすぎずに)かかっているかかりつけの皮膚科医があれば、いきなり初診で患者さんの状況を正確に把握して前医以上の対応をすることは普通はできません。初診時にはセカンドオピニオンとしての役割を果たすことで精一杯です。これらのことを正しく理解された上で転医先に通院する時間が十分にある場合は、医師との相性などもありますし、きちんと前医にかかっていなかった場合には転医されて一からやり直されるのも良いかもしれません。

2018/1/7

アトピー便り58:保湿剤を正しく使いましょう

外来では厳しい寒さの到来とともにアトピーの症状が悪化して来院される方が目立つようになりました。定期的に通院されている患者さんはそれほど症状に変動はありませんが、一時調子の良かった患者さんが治療を中止していて急激に悪化するパターンが目立ちます。特に小児の軽症のアトピーでステロイド外用剤をきちんと使って良くなった後、保湿剤だけに切り替えてしばらく時間が経って急激に悪くなってしまう例が後を絶ちません。皮膚科の外来では最近問題となっているヒルドイドを主に保湿剤として使いますが、湿疹病変やかゆみの強いときにはヒルドイドを塗るだけでは良くなりません。治療経過が良好でステロイドの外用を止めたり、減らしたりしてきていた場合お母さんにとってはどうしてもステロイドの外用量を再び増やすことには抵抗があるようです。そこで症状が悪化した時に早めにステロイド外用剤をきちんと塗れば良くなる所をヒルドイドだけをさらに多く塗り続けて悪化させてしまいます。ヒルドイド問題は女性の美容目的での転用使用ですが、アトピーでの誤った使用法についても注意が必要です。ステロイド外用剤を正しく使って症状が良くなれば保湿剤を過剰に使用することはなくなります。ステロイドを必要以上に使って保湿剤の使用を減らすのは本末転倒ですし、適切にステロイド外用剤を使って症状を良くした後に保湿剤を中心に治療を続けていくことが理想です。実際にアトピーの7,8割は軽症ですので正しく治療を行なえば保湿剤中心の治療が可能となりますが、症状の強い場合、悪化因子を取り除くことが難しい場合にはステロイド外用剤を必要最低限に継続もしくは反復して使用していかなければなりません。

2017/12/20

アトピー便り57:しなくていい検査、しないといけない検査

アトピー性皮膚炎の診断はかゆみ、特徴的な皮膚症状、慢性・反復性の経過から行ないますが、多くの方は血液検査によって診断をするものと誤解されています。初診時に明らかにアトピー性皮膚炎と思われる患児のお母さんから「小児科で血液検査をしましたが、アレルギーはなかったのでアトピーではありません」と言われることがしばしばあります。また逆に「今まで他の皮膚科で治療していましたが、血液検査をしてアトピーかどうか調べてほしい」と言われることもあります。アトピーかどうかは問診と視診・触診で概ね判断できますのでアトピーかどうかを見極めるために積極的に検査を行なう必要はありません。アトピー性皮膚炎の患者さんの7~8割は軽症ですのできちんと保湿や治療を行なえば症状をコントロールすることができますので多くの患者さんは検査をしなくても問題ありません。一方重症のアトピーの患者さんには悪化因子を探る目的でRASTなどの血液検査を早い段階で行なう必要がありますし、外用剤の治療が適切かどうかを見極めるためにTARCを調べます。つまり多くの軽症のアトピーでは血液検査をしなくてもいいことが多いのですが、難治もしくは重症のアトピーでは積極的に検査をしなければなりません。治りにくいアトピーの患者さんでたまに血液検査でアレルギー反応があまり出ていないことがあり、その場合には金属アレルギーやかぶれの悪化因子が潜んでいることが多くパッチテストを行なって悪化因子を探る必要があります。
実際に外来ではあまり検査を必要としない患者さんから強く要望されることが多く、早急に検査をする必要のある患者さんに検査を拒否されることが多々あります。昨今のヒルドイド問題を他山の石として検査が必要な患者さんにはきちんと保険診療で行なうように適切に見極めをすることが皮膚科専門医、アレルギー専門医の役割かと思います。

2017/11/9

アトピー便り56:乾燥肌なの?

先ず最初にお断りしておきたいことは、アトピー便りの内容はその時に思いつく、お伝えしたいことを不定期に発信していますので、過去投稿のものと重複したり、同じ内容のものが繰り返し出てくることがあります。今後もこのスタイルは変わりありませんのでご了承ください。

アトピーの患児の受診の際に親御さんから「乾燥肌と言われて保湿剤だけを使っています」、「保湿剤を使ってもガサガサが治りません」としばしば言われます。多くのケースで前医は小児科のことが多く、治療は保湿剤のみか非常に弱いステロイドを少量使っている程度です。小児のアトピーは軽症が7~8割を占めますので、保湿剤のみでも、あるいは軽いステロイドを少し使うだけでも治るケースが多いのですが、(親御さんのステロイドをあまり使いたくないという思いと相まって)アトピーで一律に弱い治療が行われていて症状に対して治療が不十分なケースで症状が良くなっていないのではないかと思われます。前医も親御さんも「乾燥肌が治らない」といった認識ですが、患児の多くで(触診で)明らかに湿しんが認められます。アトピーの患児は最初に小児科を受診することが多いので小児科では(軽症が多く)強い治療を必要としないことが多いのですが、皮膚科では症状の強いアトピーを診る機会が多いのでステロイドを適切に使用しないと十分に症状をコントロールすることができません。小児科の先生にもよく「皮膚科はすぐにステロイドを使う」と言われますが致し方ありません。乾燥肌か、湿しんか早い段階で症状の程度を見極めて適切に治療を行なえば一部の重症のアトピーを除いて速やかに症状は改善するものと思われます。

2017/10/20

アトピー便り55:アトピーあるある

アトピー性皮膚炎の患者さんおよび患児の親御さんの多くは一定期間内で完治することを望まれて受診されます。外来で患児の親御さんからしばしばお伺いするのは、初診・再診を問わず「完全に早く治したい」、「ステロイドを使わずに治したい」、「検査をして原因から治したい」といったご意見です。
かゆみでつらそうな、症状が目立つ子どもを目の当たりにすると早く何とかしてあげたいと思う親御さんの気持ちは良く分かりますが、アトピー性皮膚炎の治療の目標は,日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドラインにもあるように、「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持することである。また、このレベルに到達しない場合でも、症状が軽微ないし軽度で、日常生活に支障をきたすような急な悪化がおこらない状態を維持することを目標とする」ことで、特に重症例では「完全に早く治す」ことはなかなかできません。そこで経過の良いアトピーの子どもを持つ知り合いの方からアドバイスを受けることが多いようで、外来でもそのアドバイスを元に受診されるケースをしばしば経験します。アドバイスの主なものは、(1)ステロイドは使わずに治す方が良い、(2)ステロイドは使い続けると色が黒くなる、(3)検査をして食物アレルギーの対策をしないと治らない というものです。
先ず(1)についてですが、小児のアトピー性皮膚炎の多く(7,8割)は軽症なので治療の内容とあまり関係なく良くなります。実際にステロイドを使わなかったり、弱いステロイドを少し使っただけで治る子どもも多いのですが、残りの2,3割の症状の強いアトピーの患児についてはステロイドを使わずに治すことは難しいのでご留意ください。親御さんに症状を過小評価されていることも多く、症状の強い患児が(ステロイドを使った)十分な治療を行なわないとどんどん症状がひどくなっていきますのでご注意ください。また子供さんがあまりにかゆがるあまり症状を過大評価されている場合もありますので、症状がどんどんひどくなる場合、見た目は大したことはないけどすごくかゆがる場合、いずれも皮膚科専門医に相談してみてください。重症のアトピーの子どもさんでは強いアレルギーが見られることが多く、かぶれ、ストレスなどによるひっかき癖、生活習慣上(汗、乾燥、シャンプー、石けん、洗剤など)の悪化因子なども数多くありますので、これらの対応抜きには症状の改善は望めませんので必要に応じて検査が必要となります。
(2)については、湿しんを含めて炎症の跡は火事の焼け跡と一緒で茶色く跡が残ります。早くステロイドでアトピーを治すと茶色い跡はあまり目立ちませんが、こじらせて治るのに時間がかかった場合の跡はしばらく目立ちます。また、塗るステロイドの強さ、塗る範囲、塗る量、治療(継続)期間が十分でないと、いくら治療を毎日続けていても炎症がダラダラと続いて、かゆみで引っ掻き続けて、皮膚が茶色く、硬くなってしまいます。ステロイドを長期間にわたって使い続けて症状が良くならないときには副作用のことはほとんどなく、ステロイドの外用治療が長期間にわたり十分に行なわれていない結果、アトピーの症状が改善していない、場合によっては悪化しているものがほとんどです。ただし、外用するにつれて明らかな悪化がある場合には外用剤によるかぶれ、とびひ、ヘルペスなどの感染症がみられることもありますので、良くなっているかどうかわからず判断に迷うときには早めに(外用開始後数日以内に)皮膚科の主治医の診察を受けてください。
(3)については、乳幼児では食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎がありますが、近年食物アレルギーは湿疹などでバリア機能の悪い皮膚から食物に感作されて起こると考えられるようになりました。消化器の発達に伴い2,3歳で食物アレルギー自体軽快するものがほとんどですが、乳児期のアトピーについても皮膚の湿疹をステロイドで早期に治すことが重要で、保湿の継続とともに食物アレルギーの予防にもつながると考えられています。食物アレルギーの治療の最近の考え方は必要最低限の制限です。ひと昔前までは血液検査でアレルギーが少しでも出た場合にアレルゲンを完全除去される場合もありましたが、血液検査はあくまで参考で、実際に食べてみて反応をみる負荷試験で判定します。卵を例にとりますと、黄身は反応が出にくいので食べれることが多く、パンやめんのつなぎには少量しか入っていないので血液検査で卵白が低い数値で陽性に出ていても食べれることがほとんどです。血液検査が高値で陽性の場合、明らかに食べた直後に口のまわりが赤くなったり、じんま疹が出たり、ぜんそくなどの強い症状が出る場合には厳格に制限することが必要となります。乳幼児のアトピーで食物アレルギー検査が必要となるのはきちんとステロイドの治療を続けているにもかかわらず症状が良くならない場合で、多くの場合にはステロイドの適切な外用と保湿を続けることで症状が改善することが多く、アレルギー検査をすぐに必要とすることはあまりありません。検査で低い数字で陽性にでることはめずらしくなく、過剰に反応して制限しすぎないようにすることが必要です。

2017/9/29


外来診療の概要

  • 治療指針
  • 主な診療の現状
クリニック・ドクターについての情報はこちら